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強く儚いものたち

もう2ヶ月以上は前の話です。
その時は「こんなこと書けない」と、心の整理がつかず、また本当に悲しかったので、日頃から仕事の話をちょこちょこ打ち明けている友人に話すだけで落ち着きを取り戻していました。

改めて書こうと思うとちょっと心拍数が上がっています。そんな自分に驚きつつ、まぁ喉もと過ぎればではないけど、良い人生勉強になったと言い聞かせ、平気になってきたので、ブログネタとして載せたいと思います。



その人は「お久しぶりですね」と言いました。
指名されて向かった先は初めて行くラブホテル。
お客さんの顔を見て必死に記憶の糸を手繰りました。
目がくりっとしていて可愛い顔をしています。このくらい可愛い面立ちの人なら余計忘れていないはずなのに、お客さんとしてついた記憶が出てこない。
ここのデリに入ってからついた人じゃないな、じゃあ前にいたお店でついた人?
部屋のドアを開けて対面し、「お久しぶりですね」を言われた瞬間からあたしの頭の中はフルスピードで海馬の中を彷徨いました。

でもどっかで見たことある。

それだけは朧げながら感じていました。

「お久しぶりですね。覚えていますか?池袋のお店は辞められたんですね。」

そう言われた瞬間、光の速さで記憶が繋がりました。
お客さんでついたことなどありません。この人はあたしが以前働いていたホテヘルの従業員だったのです。
大抵の風俗店の男性従業員がそうであるようにその人も白いシャツに黒いパンツで仕事をしていたので、その日、ラフな格好をしていることですっかり騙されていました。
疑心暗鬼になりながらも、その人はとても親しみやすい人であったために懐かしさも感じ、「覚えてます!お元気でしたか?」と再会を愉しむような会話をしていました。

青猫は今使っている源氏名をとても気に入っています。
だからお店を移る際にも名前を変えたくありませんでした。それがその人に発見されてしまった原因でした。

はじめのうちは近況報告だの世間話だのしていました。
その中でその人は、あたしにすごく会いたかったのだということをぽつりぽつり挟んでくるので、いくら阿呆なあたしでもその人の言わんとすることが解ってきました。
その人は今、風俗店で働いておらず(もともとあたしのいた店で働いていたのも知り合いのつてで期間限定で働いていたらしい)、自分のバーをオープンさせるのに奔走しているとのことで、あたしが「これは偵察か何かなんですか?」とストレートにかましてしまった質問に対し、そうではない、ただ純粋に会いたかったんですとの旨を語りました。

だがしかし、いくら知っている人間とはいえ時間が来るまで延々とお喋りに興じていていいものだろうか。お客さんが心の底からそれで構わないと思っているのなら問題無いが、そうでないのならあたしは風俗嬢に求められる仕事を全うすべきだ、そう思い、「別にこのまま話しててもいいんだけど…」と話すことが本心ではないことがありありなその人をシャワーに誘いました。
知り合いとなんて絶対に仕事は出来ないと思っていたあたしは、その時意外なほど落ち着いていた自分自身に内心プロ根性を感じずにいられませんでした。「やるなぁ、自分」と心の中でほくそ笑むくらいの余裕はあったのです。

ベッドの上でも同じことです。服を脱いだらみんな一緒。やるべきことをやるだけです。
そう思っていました。
その人は興奮のボルテージが上がってくる中で、
「ボク、青猫さんのことちょっと好きだったんですよ。だから青猫さんが出勤の日はすごく嬉しくて…」
と告白してきました。
あたしは曖昧にかわしつつ、特に嬉しさもありません。
だってこの人は、好きになった相手がたまたま風俗嬢であったがためにいけしゃあしゃあと身体を交える事が出来るのです。それを確信してあたしを呼んだわけです。つまりはお話の帰結は其処ただの一点しかありません。
その現実にあたしは少しの落胆を覚えました。でも、もし自分が逆の立場だったらどうだろうとも考えました。やはりこの人と同じような行動に出るのではないか、自分を卑しい人間だと蔑みながらも欲望を可能にする現実を同時に持ち合わせていたとしたら、理性は負けてしまうのではないだろうかと思い、まぁ仕方が無いか、とその人とあたしにまとわりつく現実を妥協して受け入れることは出来ました。

しかし問題はその後に起こったのです。
勘のいい人なら既にお気づきのことかもしれません。
あたしは唖然呆然、目の前で起こる出来事が信じられないくらい一瞬混乱しました。

その人は本番を求めてきたのです。

本番強要、それ自体は日常茶飯事です。嫌気が差してキレそうな事もあるけど、泡姫で無い限り法律云々言う前にそういう行為に及ぶことを決して許すことが出来ません。それはお客側の品格もあたしの品格も問われる問題だからです。本強は日常茶飯事、だから上手にあしらう事もまた仕事の一環ではあります。
この時の本強だって100あるうちの1つに過ぎないと思われる人もいると思います。
でもあたしにとっては絶望の音がする言葉でした。

この人は、好きという言葉が免罪符にでもなると、そう思っているのだろうか。好きだといえば許されると、愚にもつかないことを考えているのだろうか。
あまりに身勝手すぎる。
好意を抱いていた嬢をネット上で見つけた。それで会いたくなる気持ちまで否定は出来ない。サービスをしてもらうことも計算に入れていた、それはあたしの仕事上そんな風に考えられても仕方がない部分はある。
でもあたしはヘルス嬢であり、ソープ嬢ではない。
風俗業界のことをまったく知らず、お店からも「本番は禁止行為ですよ」と聞かされていない男の子じゃあるまいし、本番がご法度であることをよもや知らないとは言わせない。
この人は風俗嬢に一番近いところで、短い間ではあったものの働いていたのではないのか。
この人は風俗嬢の何を見ていたのだろうか。
結局は慰みの対象でしかなかったのだろうか。
あのお店の女の子は、本当に性格のいい素敵な人たちばかりだったのに、人格なんてまるで無視かよ。

激しく混乱し憤る中、それでも心を殺して本番はダメだということをやんわり告げました。
本番が出来ないと解ったその人のチンコが萎えたことが、あたしをまた苛つかせました。
セックスにしか焦点のあっていないその人の現実を突きつけられ、愕然としました。

涙も通り越した絶望です。
迎えに来たドライバーさんに明るい調子で「ちょっと聞いてくださいよー!今のことのお客さん、前いたお店の人だったんですよ。ありえないですよね。」と、冗談めかして話すことで精神状態をキープし、その日残りの仕事に臨みました。
それでも本番強要されたことだけは言えませんでした。
口に出すことでその現実を受け入れてしまう気がして、その時にはそんな勇気、あたしには無かったのです。

こんな言いようの無い悲しみ、それまで味わったことがありませんでした。

まさに無常です。

友人Yに話すと、
「そんな下らない人間は山ほどいる。そいつらバカにいちいち反応して傷ついてたらきりが無い。悲しむよりもそいつらに傷つけられない強い心を持つために努力することが重要なんだ。」
と言う様な事を電話口で言われ、それは最もだ、そして素晴らしい考えだと思いました。
普段は何ら中身の無い話とあたしの揚足を取るばかりで、苛々する一方なのに、この時ばかりはYも良いことを言いました。人間生きてれば1回くらい良い行いをするものです。
あたしはYの言葉に不覚にも電話越しに泣いてしまいました。(泣いたんだよ。)



それから2ヶ月、やっとブログに書くことが出来ました。
別に書かなくてもいいことだったかもしれないけど、再度気持ちを整理するためにも、そしてこんな風にして人は傷つくということも自身で忘れたくなくて、キーボードをパツパツ打ちました。
あたしは繊細さは微塵も無いけど意外と脆いということに気がつきました。




自分が実は金属アレルギーだと気づいたのもつい先日でした。(どうりでピアスが膿んだりネックレスで首が痒くなってたわけね。)
by coffee-cigarette | 2006-07-29 12:24 | 仕事
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