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黒い眼のオペラ

すごく好きな映画監督がいます。
昨秋初めて作品を観て以来、はまってしまったその人の名前は蔡明亮(ツァイミンリャン)。マレーシア出身で台湾で映画を撮っている人です。


先日観に行った映画、『黒い眼のオペラ』。
原題は『黒眼圏 I don't want to sleep alone』です。
オペラっていうのは青あざのこと。
蔡明亮が舞台をはじめて故郷マレーシアに移して撮った今作。
行き倒れている男、彼を拾って面倒を見てやる男、夫の弟の介護で日々が終わる女、映画はこの3人を軸にして淡々と進みます。


この人の映画を観る時、あたしはすごく緊張してしまいます。
初めて観る映画を前にして、興奮しているとか期待しているとかいった類のワクワク感よりも、心の憐憫にふいに触れられてビクッとしていまうような、身動きの取れない緊張感。
人が見られたくないと思っている琴線に手を伸ばす蔡明亮の作品は、ある意味暴力的。でもそれ以上に愛に溢れているのです。


蔡明亮の映画にはっきりとしたストーリーはなくて、誰が見ても理解できる会話とか状況設定を持つ映画に慣れている人には相当退屈な映画だと思います。長回しのカメラは基本的に定点、殆ど変化の無い風景を延々映したり、会話もろくに無くて主要人物は喋らない、勿論場面を盛り上げるBGMもあるわけない。正直疲れている時に観たら熟睡必至の映画ばかりですが、言葉で何も語らないのに、こんなにも胸に響く映画が撮れるのかと、感動を覚えるのです。定点で長回しのカメラは、観る側に考える時間や緊張感を与え、どうしようもなくこの身をよじらせます。
哀しくて苦しくて切なくて堪らない、なんでこんなこと言うの?と嗚咽を漏らしながら、生きててもいいかもと思える、それがこの人の映画。

単館上映なのが惜しい。どうせレンタルとかもなさそうだし。でも映画が好きな人には絶対観て欲しい作品です。
あたしはこの人の映画と出逢えて、人生がちょっと変わりました。
by coffee-cigarette | 2007-03-28 14:08
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